預貯金が相続で遺産分割の対象になるか

預貯金の相続と遺産分割の対象 最高裁が判例を変更

相続の財産に預貯金がある場合に、預貯金について遺産分割協議の対象になるかどうかについて、新たな最高裁の判断がありました。

従来の見解では、預貯金は、分割できる債権であり、法定相続分に応じて分割されるというのが原則として、遺産分割の対象とはならないと判示していました。

平成16年4月20日の最高裁判所の判例

平成16年に出された最高裁判所の判決では、

 相続開始後,遺産分割が実施されるまでの間は,共同相続された不動産は共同相続人全員の共有に属し,各相続人は当該不動産につき共有持分を持つことになる(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁)。
したがって,共同相続された不動産について共有者の1人が単独所有の登記名義を有しているときは,他の共同相続人は,その者に対し,共有持分権に基づく妨害排除請求として,自己の持分についての一部抹消等の登記手続を求めることができるものと解すべきである(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民集17巻1号235頁,最高裁昭和48年(オ)第854号同53年12月20日大法廷判決・民集32巻9号1674頁参照)。
また,相続財産中に可分債権があるときは,その債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり,共有関係に立つものではないと解される(最高裁昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4号819頁,前掲大法廷判決参照)。
したがって,共同相続人の1人が,相続財産中の可分債権につき,法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には,当該権利行使は,当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから,その侵害を受けた共同相続人は,その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものというべきである。

として、預貯金については、遺産分割の対象とはならないとしていました。

預貯金自体は、銀行・金融機関に対する債権です。これは、可分債権ですので、本来であれば相続人に当然に分割して承継され、相続人がそれぞれ分割して取得し、それぞれが払い戻しを請求することができます。
(ただ、金融機関それぞれの規則や取扱いにより、所定の遺産分割協議書を求められるケースも多くありました)

なお、相続の実務上は、預貯金の遺産分割については、一般的には遺産分割協議の内容として含むということがほとんどです。
共同相続人がその旨の合意をすれば、そちらの合意にしたがうという取り扱いになっていました。

平成28年12月19日の最高裁判決

しかし、この度の判例の変更により、遺産分割協議の仕組み自体が、相続人の間の公平を調整するものであるとして、預貯金も遺産分割の対象に含むという判断をしました。

(1) 相続人が数人ある場合,各共同相続人は,相続開始の時から被相続人の権利義務を承継するが,相続開始とともに共同相続人の共有に属することとなる相続財産については,相続分に応じた共有関係の解消をする手続を経ることとなる(民法896条,898条,899条)。
そして,この場合の共有が基本的には同法249条以下に規定する共有と性質を異にするものでないとはいえ(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁参照),この共有関係を協議によらずに解消するには,通常の共有物分割訴訟ではなく,遺産全体の価値を総合的に把握し,各共同相続人の事情を考慮して行うべく特別に設けられた裁判手続である遺産分割審判(同法906条,907条2項)によるべきものとされており(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照),また,その手続において基準となる相続分は,特別受益等を考慮して定められる具体的相続分である(同法903条から904条の2まで)。

このように,遺産分割の仕組みは,被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであることから,一般的には,遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましく,また,遺産分割手続を行う実務上の観点からは,現金のように,評価についての不確定要素が少なく,具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在することがうかがわれる。

ポイントとしては、

  • 遺産分割の仕組みは、実質的公平を図るために、被相続人の財産を幅広く対象とすることが望ましいこと
  • 預貯金は、現金と同様に、その評価額や評価手法についての不確定要素が少ないこと

これらの理由により、共同相続された預貯金(預金債権)は、相続で当然に分割されるのではなく、遺産分割の対象となるとして、従来の判例を変更する取り扱いとしました。

前記(1)に示された預貯金一般の性格等を踏まえつつ以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると,共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。

相続の手続きでの変更点

実際に相続の実務において、取り扱いが大きく変更することは、そこまで多くはないかもしれません。
従来でも、預貯金の遺産分割協議を行うことは一般的でしたし、銀行の内規でも共同相続人の遺産分割協議書と印鑑証明書を求められることは多くあることでしたので、平和で平穏に終わる相続であれば問題はないでしょう。

ただ、相続人間で争いがあったり、紛争性がある場合は、今回の最高裁での凡例変更によって影響が出てきそうです。

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