空き家の管理責任
- 2016/11/4
- 2019/3/26
相続放棄後の空き家管理
相談内容
1年前に兄が亡くなりました。
兄は未婚で、子どももいません。親戚は弟である私くらいです。
私は就職を機に上京しましたが、兄は田舎の実家を継ぎました。
兄の財産を調査した結果、多額の借金があることが判明し、実家の不動産を売却しても借金が返せないことが分かり、私は相続放棄をしました。
相続放棄した後、兄の住んでいた家が老朽化しており、近隣住民に迷惑を掛けているので、きちんと管理して欲しいと行政から書面が送られて来ました。
私は、どうすればよいでしょうか。
空き家と相続財産管理人
相続財産管理人を選任し、その財産管理人が当該不動産を売却、除却又は国庫帰属させることが考えられます。
相続財産管理人選任が難しい場合は、処分行為に当たらない範囲で、亡兄の家を管理できるのであれば管理することも考えましょう。
管理する場合でも、相続放棄をした者は当然に処分行為等ができる訳ではありません。
行政から処分行為等の指導がなされた場合は、不可能である旨を行政に伝える必要があります。
相続人不存在と相続財産管理人の選任
民法では、相続人全員が相続放棄をした場合も含め相続人がいない場合は、相続財産管理人の制度を利用することが予定されている。
したがって、ご相談のケースでも相続財産管理人の選任を検討すべきである。
特定空家等に対する措置と相続放棄後の財産管理継続義務
相続放棄後の財産管理義務の対象
相続放棄後の財産管理継続義務を規定した民法940条は、誰に対する義務なのであろうか。
民法940条では次のように定められている。
「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」
上記規定の意味としては、相続放棄をした者の管理継続義務は、その者の相続放棄により相続人となった他の相続人や相続財産法人が相続財産の管理を始めることができるまでの間、他の相続人や相続財産法人に対して負う義務であり、第三者や行政に対する義務ではないとされている。
相続放棄者は空家特措法3条の管理者か
空家特措法3条においては、「空家等の所有者又は「管理者」は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるものとする」と規定されているところ、この「管理者」の中には空き家等を事実上管理している者(例えば、空き家の管理代行サービスを所有者から引き受けている法人など)を広く包含するものと解されている。
したがって、「相続の放棄をした者」も、空家特措法第3条の「管理者」に含まれると考えられる。
相続放棄者の権原と空家特措法
「(相続)放棄者による管理行為は民法第103条の範囲に限られ、処分行為は含まれていない」(『新版注釈民法(27)』P635)とされている上、相続放棄をしたものが処分行為を行うと、単純承認を行ったとみなされるおそれがある(民法921条)。
また、相続を放棄した者の管理継続義務はあくまで相続人間のものであり、第三者一般に対する義務ではないことから、相続の放棄をした者については、そのような民法940条により義務づけられた範囲以上の努力義務を空家特措法上負うことはないと考えられる。
民法 第103条(権限の定めのない代理人の権限)
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
相続放棄者を名宛人とする特定空家等に対する措置が妥当か
以上のことから、仮に相続の放棄をした者が空家特措法14条1項に基づく助言又は指導や同条2項に基づく勧告を市町村長から受けたとしても、そもそも相続の放棄をした者には第三者一般との関係で管理継続義務を負っているわけではない。
したがって、相続の放棄をした者に空家特措法14条1項又は2項に基づく必要な措置を行う権原はない(すなわち、相続の放棄をした者は市町村長による助言・指導又は勧告の名宛人になるものの、必要な措置を講ずる権原がないことから、助言・指導又は勧告を講ずる実質的な意味がない)とされている。
また、「必要な措置」を行う権原がないことは空家特措法第14条3項の「正当な理由」に該当することから、そのようなものに対して市町村長は当該必要な措置を命ずることはできないと考えられる。
相続放棄をした者の空き家管理義務
上記のとおり、相続の放棄をした者は、他の相続人や相続財産法人に対して管理継続義務を負う。また、空家特措法上の管理者にも当たる。
したがって、事情が許すのであれば、法定単純承認にならない範囲で管理することが望ましい。
また、本件のような事情で行政から建物の除却等処分行為に当たる指導を受けた場合には、行政の指導に従わないことに正当な理由があるので、事情を説明し、処分はできない旨を伝えるよう相談者にアドバイスすべきである。
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